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なぜ若者は農業を離れるのか? メコンデルタの高齢化と後継者不足

農村の棚田で働く高齢農家を背景に、悩む若者のイラスト

メコンデルタでは、農業労働者が2011年の510万人から2021年には360万人へと約30%減少し、若年層の流出と高齢化が同時に進んでいます。農業労働者の約60%を40歳以上が占める一方、2020年から2024年にかけては毎年約20〜25万人がホーチミン市やビンズオン、ドンナイなどの工業地域へ移動し、その70%以上が18〜35歳の若年層でした。後継者不在の農家が増え、低収入や重い作業負担、気候変動による不安定な生産環境が若者の離農をさらに加速させています。

本記事では、こうした人口動態と農業構造の変化から見えるメコン地域の深刻な課題と、その克服に向けた方向性を紹介します。

目次

西部メコン地域で深刻化する農業の高齢化

高齢農家が抱える後継者不在の実情

VnExpress紙の2025年9月2日付記事によると、西部メコン地域では若年層の都市部への移動や農業離れが進み、多くの農地が高齢者だけで維持されており、後継者不足が顕在化しています。ある農家は1.2ヘクタールのマンゴー園を一人で管理しており、3人の子どもはいずれも農業を継ぐ意思がないといいます。農薬散布、施肥、草刈り、剪定など日常的に作業が続き、収穫や袋掛けは日雇い労働者を雇う必要があります。

一方、近隣の別の農家も約5,000平方メートルの農地を一人で支えており、子どもたちは工場勤務や商売を選択しています。これらの農家は、将来体力が落ちた際には農地を貸し出す可能性を示しつつ、労働力不足や機械化の難しさに直面していると述べています。

若年層の離農と統計が示す農業構造の変化

メコン地域では全国のコメ生産の50%、養殖水産物の65%、GDPの17%を占める重要な農業地帯にもかかわらず、後継者不足が広がっています。統計総局のデータでは、2011〜2021年にかけて農業労働者は510万人から360百万人に減少し、労働力全体の40%に縮小しました。特に30歳未満の若年層が大幅に減り、40歳以上の割合は約60%に達しており、今後も増える見込みです。

また、カントー大学とアンザン大学が農家出身の学生約450人を対象に行った調査によれば、農業を続けたいと回答した学生は20%直接生産に携わりたいとしたのは3%未満でした。

技術導入の遅れや気候変動が生む課題

気候変動の影響が大きいなかで、主に40歳以上の農家が経験に基づいて対処している現状があります。研究者は、現代的な生産技術を導入するには科学技術を理解する若い人材が不可欠であり、若年層の不足は産業の遅れにつながりうると分析しています。

また、地方政府の担当者は、農業の収入が他産業に比べて見劣りするため、高齢者が農業を担う状況はベトナムだけでなく多くの国で見られると説明しています。長期的には、農業サービスや協同組合の整備、機械化の促進により、高齢農家の負担を軽減する必要があるとしています。

さらに、自治体は高齢農家向けの研修を実施して技能向上を図るとともに、新しい協同組合や農業企業の形成を促し、若者が生産以外のバリューチェーンに関わる機会を広げています。ただし、多くの専門家は、若年層を農業に引きつけるには、安定した収入や昇進の機会、社会保障制度が不可欠だと指摘しています。

若者が農業を離れる背景

低収入と高い労働負担

VnExpress紙の2025年9月21日付記事によると、農業分野では収入の低さや仕事の重労働が続き、若い世代が農業に定着しにくい状況が生じています。ある地方の住民によれば、一家が所有する1ヘクタールの水田は、1年間に2回の稲作を行っても1回あたりの利益は500〜1,000万ドンにとどまり、天候に左右される天然エビ漁も安定した収入を期待しにくいとされています。

また、2人の労働力を投入して豊作になった場合でも年間5,000〜6,000万ドン程度の収入にしかならず、日々の生活費で精一杯だと説明しています。その一方で、別の地方出身の労働者は新型コロナの影響により2020年に建設業から転職して約4,000m2の果樹園を運営しましたが、経験不足や投入費用の増加により赤字となり、再び工事現場に戻る意向を示しています。

技術導入と政策支援の必要性

ある企業の代表者は、農業からの労働移動は否定的とは言えず、残った労働者1人あたりの耕作面積が広がることで、技術の導入が可能になると説明しています。

また、農業に人材を引きつけるには「支援」と「規律」の両方が必要とし、支援としては財政支援、農業指導、技術投資、価値チェーン全体のデジタル化が挙げられています。

一方で、規律としては農産物の基準、食品安全、トレーサビリティの要件を義務付け、農家に技術導入を促す必要があると述べています。さらに、気候変動によって作期、土壌、水の状況が変化していることから、経験だけに頼らず技術による管理が求められると指摘しています。

若者を引きつけるための制度整備

経済専門家は、企業ニーズと結びついた労働者の教育・再教育が必要だと述べています。また、アンザン、ドンタップ、ビンロン、カントーでは、透明な運営や安定した仕事を備えた新しい協同組合や先端技術を用いた農業企業で、若者が長く働く例があるとしています。

専門家によれば、若者を農業に引きつけるには、①農業保険、優遇融資、販売契約などの所得・社会保障策、②農業を「知識経済」の一部として捉え、起業やイノベーションの場をつくること、③デジタルインフラや物流への投資により農産物を迅速に市場へ運び、コストを減らすことの3点が必要とされています。

若者の都市部流出が続くメコンデルタ

若年労働者の流出状況と地域への影響

VnEconomy紙の2025年10月9日付記事によると、メコンデルタでは長年にわたり若年労働者がホーチミン市やビンズオン、ドンナイなどの工業地域へ移動する傾向が続いています。2020年から2024年には、毎年約20〜25万人が移動し、18〜35歳が70%以上を占めています。

アンザン、ソクチャン、チャーヴィン、バクリュウ(旧称)の統計機関は、農村地域における人口の高齢化と農業分野の若年労働力減少を報告しており、チャヴィン(現ヴィンロン)では過去10年で20〜35歳の農業労働者が30%以上減少しています。

一方で、移住者が送金を行い生活を支える積極的な側面があるものの、農業分野での若年人材不足や農村の高齢化が進み、地域の生産力低下が懸念されています。また、工業地域では移住労働者の増加により住宅や社会保障への負荷が高まっており、ビンズオン(現ホーチミン市)の調査ではメコンデルタ出身者の60%以上が医療保険未加入、70%以上が20㎡未満の住居で生活している状況も確認されています。

その一方で、大学卒業後の若者が地元へ戻らない「知識流出」も問題となっています。カントー大学の統計では、メコンデルタ出身の卒業生が地元に戻って働く割合は20〜25%にとどまり、全国で最も低い水準とされています。これにより、同地域における産業・サービス分野の高度人材不足が顕在化しています。

職業訓練・生活環境整備による定着促進

加えて、現在、メコンデルタの若年層で職業資格を持つ割合は22〜25%で、全国平均の約38%を大きく下回っています。そのため、物流サービス、生態観光、再生可能エネルギー、農産物加工など新たな価値チェーンに参加できる「短期・実践・柔軟型」の職業訓練プログラムが求められています。

また、住宅・医療・文化などの生活環境の改善も、若者の地域定着に重要な要素とされています。複数の地方では、就労と生活の両面を支える「農村型工業居住クラスター」の形成が提案されており、社会インフラが整備されれば流出の抑制につながるとしています。

おわりに

メコンデルタでは、若者流出と農業の高齢化が進み、地域の生産体制に影響が出始めています。収入の不安定さや労働負担など、さまざまな要因が担い手不足を招き、農業の継続を難しくしています。今後は、技術・教育・生活環境といった幅広い分野で改善を進め、若い世代が地域で働きやすい環境をつくることが求められます。

ベトナムの人事に関するお悩みがございましたら、お気軽にご相談ください。

※本記事は、公開時点の各ニュースソースを参考に、主要なポイントを編集・再構成したものです。概要の紹介を目的としており、最新情報は公式発表などのご確認をお願いいたします。

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