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2024年末時点で、ベトナムで働く外国人労働者は16万人を超え、さまざまな国・地域から専門性の高い人材が集まっています。しかし、現行の労働許可証(ワークパーミット)の制度には煩雑な手続きや取得要件の厳しさ、処理の遅さといった課題があり、企業や業界団体からは改善を求める声が上がっていました。
こうした中、ベトナム政府は政令第152/2020/ND-CP号および政令第70/2023/ND-CP号の改正を視野に、新たな政令の草案を公表。2025年6月には政令第128/2025/ND-CP号が正式に公布され、労働許可証の発給権限が内務省から各省・市の人民委員会に移管されました(施行は2025年7月1日)。
続く2025年8月7日には、外国人労働者に関する規定を全面的に改正する政令第219/2025/ND-CP号が公布・即日施行されました。新政令では、外国人雇用枠申請と労働許可証申請の手続きを一本化して申請期間を短縮したほか、専門家や技術者の申請要件を緩和し、優先分野で活動する人材に対する免除が追加されています。
しかし、新政令施行後、システム更新の遅れにより労働許可証の申請が受け付けられない状況や、健康診断書・パスポートの規定や駐在員給与の支払いに関する問題も発生しています。
本記事では、外国人労働者の現状データとあわせて、ベトナム政府による労働許可証制度見直しの最新動向を、時系列で整理してお伝えします。
外国人労働者数の現状
以下の外国人労働者に関するデータは、ベトナム労働新聞(Nguoi Lao Dong)の2025年5月3日付記事をもとに整理しています。
- 2024年末時点の外国人労働者数
- 全体: 約161,992人
- 労働許可証が必要な対象者: 149,195人
- 新規発給:108,932人
- 更新(延長):18,779人
- 再発給:11,936人
- 許可申請中(書類手続き中):9,548人
- 労働許可証を不要とする対象者: 12,797人
- 国籍別の内訳(およそ110の国・地域)
- 中国:30.9%
- 韓国:18.3%
- 台湾:12.9%
- 日本:9.5%
- その他:28.4%
- 性別・年齢構成
- 男性が83.1%を占める
- 30歳以上が86%
内務省の評価によれば、これまでの外国人労働者管理や労働許可証の発給業務は一定の成果を挙げてきました。特に、高度な専門性を有する外国人を受け入れることで、国内人材の不足を補い、投資や技術移転を促進する効果があるとされています。しかし一方で、許可証の発給要件や手続きに関して、産業界や各種協会からは改善を求める声があがっています。
外国人労働者管理の課題
採用需要の説明義務
ベトナム労働法第152条第1項では、外国人労働者を採用する場合、「管理者・業務執行者」「専門家」「技術者」など、ベトナム人労働者では代替困難と認められる業務であることを事前に解釈・説明しなければなりません。外国人雇用の保護的な措置としては重要な規定ですが、新たな投資分野やイノベーション分野が増加する中、企業側にとっては迅速な人材確保の障害となる可能性があります。
専門家要件の厳しさ
従来の規定では、「大学卒業以上」「3年以上の実務経験」が専門家としての主要件とされてきました。しかし、ベトナム国内の大学を卒業したばかりの優秀な留学生や、最先端分野でのトレーニングを受けてきた若手専門家などが、年数要件を満たせず就労許可を得られないケースが指摘されています。企業や研究機関では、こうした人材を早期に採用したいというニーズが強く、要件緩和に向けた議論が進められています。
データ共有とITインフラの遅れ
政府機関間のデータ共有やオンライン手続きの導入が十分進んでいないことも、大きな課題とされています。現在は労働許可証の発給手続きにおいて、企業側や申請者に負担がかかることが多く、処理期間も長期化しがちです。
新たな政令案の主な提案
ベトナム内務省は、既存の政令(政令第152/2020/ND-CP号および政令第70/2023/ND-CP号)の修正を踏まえた新たな政令案(以下、新政令案)を公表し、外国人労働者管理の柔軟化を図る方針を示しています。
労働許可証不要制度の拡充
新政令案では、外国人労働者の労働許可証を不要とする制度が大きく見直されます。
まず、内務省は特定の分野(金融、科学、技術、イノベーション、国家的デジタル転換など)で活躍する外国人専門家が、関連する省庁から認定を受けた場合に、労働許可証の対象外となるよう提案しています。
また、緊急業務に対応する管理者や専門家が入国する場合は、労働許可証の取得も犯罪経歴証明書の提出も不要となり、入国の3日前までに所轄機関へ報告するだけで手続きが完了します。
加えて、「労働許可証不要」と認められる外国人についても、「再発行」「延長」「取り消し」などの手続きを整備し、書類の紛失や有効期限切れに際しても運用上の混乱を生じさせない仕組みを整える方針です。
労働許可証手続きの迅速化
これまで労働許可証の取得までには最大36日を要するとされていましたが、新政令案では採用需要の説明義務の手続きを他の手続きと統合することで、最長10日まで短縮できるように見直しが検討されています。企業にとっては、迅速な採用が可能になるため、大きな負担軽減となる見込みです。
手続きの分権化と柔軟化
現在、外国人労働者に対する労働許可証の手続きは、勤務先が政府や省庁など中央機関に関係する場合などのケースにおいて内務省が所管しています。新政令案では、これまで内務省が対応していた手続きについても、省や市など地方自治体での申請が選択できるようにし、企業や機関の所在地や実情に応じて柔軟な対応が可能となるよう見直しが進められています。
2025年5月下旬の欧州商工会議所の動き
外国人労働許可の新政令案に関連して、在ベトナム欧州商工会議所(EuroCham)と政府のやり取りについては、以下の記事にまとめています。この記事では、2025年6月中旬の新政令施行に関する言及がありましたが、6月末時点では正式な施行は確認されませんでした。

2025年7月より省・市の人民委員会へ移管
その後、2025年6月11日に、内務分野における国家管理の分権を定めた政令第128/2025/ND-CP号が公布されました(施行日は2025年7月1日)。これは前述の新政令案とは別の法令ですが、外国人労働許可に関連する地方分権の方針を明文化した点で意味を持ちます。
第8条では、「ベトナムで働く外国人労働者に対する国家管理業務の分権化」が明記されており、以下の職務・権限が内務省(旧労働・傷病兵・社会省)から各省・市レベルの人民委員会に移管されることになりました。
- 外国人労働者の採用需要の承認
- 労働許可証が不要であることの確認
- 労働許可証の発行、再発行、延長、取消し
さらに、第15条第4項では、政令第152/2020/ND-CP号の付録Iの表記修正も行われており、「労働・傷病兵・社会省」を「省・市レベル人民委員会/内務局」へと置き換えるなどの整備がされています。
また、政令第128/2025/ND-CP号の付録IIでは、労働許可証の申請に関する手続きや必要書類が整理されており、これらの業務を各省・市の人民委員会委員長が直接実施することが明示されました。
2025年8月7日公布・即日施行の新政令
2025年8月7日、外国人労働者の就労ルールを改正する政令第219/2025/ND-CP号が公布され、即日施行されました。ベトナム電子政府新聞の2025年8月7日付記事によると、同政令は、半導体産業や人工知能などの新たな分野で有力な投資家や高度専門人材を誘致し、より柔軟で迅速な許可制度を必要とする企業のニーズに応えることを目的としています。主要な改正点は以下の3点です。
雇用枠と労働許可証の同時申請
従来は「外国人雇用枠(需要説明)の承認申請」と「労働許可証申請」を別々に行っていましたが、今回の改正で一本化され、同時申請が可能になりました。受理から10営業日以内に許可、または3営業日以内に不許可理由を通知することが義務付けられています。申請の提出期間は、就労予定日の60日前から10日前までです。
専門家・技術者の要件緩和
専門家は「学士以上+2年の実務経験」または「学士以上+優先分野における1年の実務経験」、技術労働者は「1年以上の訓練+2年の実務経験」または「3年の実務経験」とされました。これまで少なくとも法令上3〜5年必要とされていた実務経験の年数が短縮され、より多くの外国人労働者が申請できる可能性があります。

労働許可証免除対象の追加
金融・科学・技術・イノベーション・国家デジタル変革などの優先分野で活動し、所管省庁や省級人民委員会の確認を受けた外国人専門家は、労働許可証が不要となります。ただし、この場合でも労働許可証の免除申請は別途必要です。
なお、旧政令に基づき発給済の労働許可証や労働許可免除証は有効期限まで使用可能で、施行日前に提出済の申請は旧政令に従って審査することになっています。
政令施行後の手続き遅延と内務省の対応
ベトナム電子政府新聞の2025年9月13日付記事によると、ある企業関係者は「政令第219/2025/ND-CP号は2025年8月7日に施行されたものの、所在する地域の内務局では関連システムが更新されていないことを理由に、外国人労働者の労働許可証更新申請を受け付けてもらえず、結果として期限内に手続きができず、追加費用やその他の煩雑な対応が発生している」と報告しました。
この件について内務省は、同政令により労働許可証の発給・再発給・延長・取消し、ならびに労働許可証不要確認の権限が省・市レベルの人民委員会に委譲されたと説明。その一方で、多くの地域で申請受付が遅れており、企業のビザ延長や生産計画に支障が出ていると認めました。そこで内務省は2025年8月29日付で公文書第7285/BNV-CVL号を発出し、各省・市人民委員会に対して以下を要請しました。
- 政令第219/2025/ND-CP号の内容を関係機関・企業・外国人労働者に広く周知すること
- 労働許可証の発給・再発給・延長・免除確認を迅速に実施し、地方の実情に応じた具体的な指導を行うこと
- 運用上の困難や不統一を早急に解消し、実施状況を監督・報告すること
内務省は、これらの措置により制度の円滑な運用と法令遵守を徹底する姿勢を強調しました。
健康診断書とパスポートに関する問題点
韓国商工会議所の懸念
ザンチー紙の2025年9月29日付記事によると、ホーチミン市で開催された法令に関する会議において、在ベトナム韓国商工会議所(Kocham)の代表は、新政令第219/2025/ND-CP号によって外国人労働者の健康診断書の取り扱いが変更された点に懸念を示しました。
従来は外国の医療機関発行の診断書も認められていましたが、新規定ではベトナム国内、または相互承認協定のある国・地域の医療機関発行に限定されました。保健省からの具体的なガイダンスはまだ出ておらず、特に従来の規定に従って準備していた外国人労働者に混乱が生じています。
さらに、パスポートについても原本を提出すべきかコピーで足りるのかが明確にされていない点も問題となっています。
代表は、「これらの問題を解決するための柔軟な手段はないのでしょうか」と疑問を呈しました。これに対し、内務省雇用局の副局長は、調査の過程で、代表が指摘したような問題点を当局も把握していると述べました。
内務省雇用局の回答
健康診断書について
バクザン省・クアンニン省などの一部地域では、外国人労働者の健康診断書を旧規定に基づいて一時的に提出することを認めています。また、場所によっては、企業が全責任を負う旨の誓約書を提出し、一定期間内に適切な書類を補足することを条件としています。
「当面、新政令第219/2025/ND-CP号の実施にあたっては、地方当局がこのような暫定的措置を考慮し、柔軟に対応できます。長期的には、雇用局は保健省と協力して問題の解消に取り組み、あわせて内務省および保健省の指導部に提出する報告書の草案を作成し、早期に正式なガイダンスが出されることを目指しています。各解決策は、どの企業も平等に支援を受けられるという精神に基づいて構築されています。」と、副局長は回答しました。
パスポートについて
労働許可証の発給または延長の申請に必要なパスポートについては、現行規定で原本かコピーかが明確にされていないことが企業の混乱を招いています。
副局長によれば、パスポートが有効期限内であれば、企業は公証済みコピーを提出するか、あるいはコピーを提出して原本を照合に用いる方法のいずれかを選択できる、ということです。
企業内異動の駐在員給与に対する見解
日本貿易振興機構(JETRO)の2025年12月5日付記事によると、内務省は企業内異動の形でベトナムに赴任する外国人駐在員に関して、現地法人による給与の支払いを認めないとの解釈を示しています。これを受けて、ベトナム日本商工会議所(JCCI)が運用の是正を求める意見書を送付しましたが、その回答(公文書10861/BNV-CVL)では特に解釈に変更がなく、今後も変更がなければ、労働許可の再取得手続きや社会保険料の二重払いなどが発生する懸念があるとされています。
内務省の見解では、以下の2パターンに整理されています。
| 企業内異動として勤務 | 労働契約を締結して勤務 | |
| 労働許可の勤務形態 | 企業内異動 | 労働契約の履行 |
| ベトナムでの労働契約 | 締結しない | 締結する |
| 給与の支払い | 海外の本社が支払う | ベトナム現地法人が支払う |
| ベトナム社会保険 | 加入対象外 | 強制加入の対象 |
一方、法人税に関する政令第320/2025/ND-CP号(2025年12月15日発行)の第10条8項b号によると、給与の損金算入要件となる書類として、以下のように企業内異動に関する書類が記載されており、上記の内務省の見解と一致していないように考えられます。
- 労働契約書
- 外国企業が外国人をベトナムで就労させるために発行した文書
(外国人が企業内異動またはグループ内における親会社と子会社間での異動により派遣される場合) - 集団労働協約
- 会社、総会社、グループの財務規程
- 会社、総会社、グループの財務規程に基づき、取締役会会長、総社長または社長が定める賞与規程
なお、社会保険料の二重払いに関しては、将来的に以下の日本・ベトナム社会保障協定が締結された際に改善される可能性があります。

おわりに
2025年7月の地方分権化に続き、8月には政令第219/2025/ND-CP号が施行され、外国人労働許可制度は手続きの統合や要件緩和、免除対象の拡大など、企業にとって利便性が向上する内容となりました。一方で、システム更新の遅れにより手続き遅延が発生し、健康診断書やパスポートに関する規定や駐在員の給与支払いに関する問題点も浮上しています。新政令の運用状況を確認しつつ、今後も関連情報をお届けしてまいります。
ビザ・労働許可証に関するお悩みがございましたら、お気軽にご相談ください。
※本記事は、公開時点の情報を参考に作成しており、今後変更となる可能性があります。また、具体的な運用は管轄機関によって異なる可能性があるため、実務上は事前にご確認をお願いいたします。

