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ベトナムの企業年金、追加年金保険の新政令と税制優遇の課題

スーツ姿の男性と作業員が金貨やお札を育てるマネーツリーを囲み、天秤や上昇グラフと都市が描かれたフラットイラスト

ベトナム政府は2026年5月10日より、追加年金保険に関する新政令(第85/2026/NĐ-CP号)を施行します。加入手続きや受給条件の整備が進む一方、2013年以来13年間据え置かれてきた税控除上限は制度普及の妨げとなっており、財務省はその上限を現行の月100万ドンから300万ドンへ引き上げる案を検討中です。

本記事では、追加年金保険の制度概要・加入手続き・税制をめぐる課題と最新動向について紹介します。

目次

追加年金保険への加入手続き

制度の概要と政令の位置づけ

ベトナム電子政府新聞の2026年3月27日付記事によると、政府は追加年金保険に関する政令第85/2026/NĐ-CP号を公布しました。同政令は2026年5月10日に施行され、2016年7月1日付の政令第88/2016/NĐ-CP号に代わるものとなります。社会保険法第127条第3項に基づき、追加年金保険への加入、基金の設立・管理・運用、基金管理企業、および関係機関・組織の責任について定めています。

追加年金保険とは、強制社会保険における退職給付を補完する任意の保険です。基金は使用者、または使用者と労働者双方の拠出によって形成され、個人退職口座ごとに管理されます。給付額は、市場原理に基づく基金の運用活動を通じて積み立てられた、支払時点の個人退職口座残高をもとに算定されます。

なお、同政令の適用範囲には以下は含まれません。

  • 社会保険法に基づく強制・任意社会保険
  • 保険事業法に基づく保険会社の年金保険商品
  • 証券関連法に基づく証券投資信託の管理業務

加入対象・拠出額・受給条件

加入対象は、強制社会保険に加入している使用者および労働者です(社会保険法第2条)。

加入はあくまで任意であり、採用・労働契約の締結・更新の条件にはなりません。使用者は加入の有無を理由に労働者の権利・正当な利益を侵害・制限することや、加入を報奨・評価・福利厚生の方針と連動させることも禁止されています。

拠出額は使用者と労働者が合意のうえで決定します。労働者が使用者の拠出分および運用益を受け取るための条件は合意書に明記され、最低勤続期間を条件とする場合は5年を超えてはなりません

ただし、以下に該当する場合は勤続条件を満たさなくとも受給できます。

  • 死亡した場合
  • がん・麻痺・非代償性肝硬変・重篤な結核・エイズのいずれかに罹患している場合
  • 労働能力の喪失率が81%以上、または重度障害者である場合
  • ベトナムに在留しない外国籍労働者、または労働許可証等が失効し更新されない場合

加入手続きの流れ

手続きは大きく3段階で進みます。

① 合意書の作成・締結
使用者が合意書案を作成し、労働者に通知・意見聴取を行います。合意後、各労働者と個別に、または労働組合委員長と署名します(任意・平等・誠実・協力・正直の原則に基づく)。記載事項は同政令附属書IIに従います。

② 基金管理企業との契約・口座開設
使用者が年金基金管理企業と加入契約を締結します。基金管理企業は加入者リストに基づき、各労働者の個人退職口座を開設します。

③ 拠出金の納付
使用者は、使用者拠出分と労働者から委託された拠出分を基金に納付し、労働者ごとの納付額を基金管理企業に通知します。

追加年金保険制度における税制優遇の矛盾

強制社会保険と追加年金保険の対比

VnEconomy紙の2026年3月13日付記事によると、ベトナムの年金制度では強制的な仕組みと任意の仕組みの間に、政策上の矛盾が生じています。

強制社会保険では、企業が労働者のために拠出する保険料は個人所得税の課税対象外となっています。これは国家が社会保険を現在の消費所得ではなく将来のための繰り延べ所得と見なしているという、一貫した政策メッセージを体現するものとされています。拠出額は以下のとおりです。

  • 企業負担分:計算基礎となる月額給与の17.5%(上限月額46,800,000ドン)
  • 労働者負担分:計算基礎となる月額給与の8%(上限月額46,800,000ドン)

この上限は基礎賃金の20倍を基準としており、基礎賃金の改定に伴って自動的に見直されます。法改正や政策論議を経ることなくシステム全体が連動して調整される点が、強制社会保険の大きな特徴です。

一方、追加年金保険(第二の柱)については、企業が労働者のために拠出した金額は個人所得税の課税対象とされたままです。これは暗黙のうちに逆のメッセージを発しており、国家が追加年金保険を社会保障の不可欠な構成要素とは見なさず、単なる通常の収入として扱っていることを示すものとなっています。この課税上の扱いにより、以下の問題が生じています。

  • 労働者が制度に魅力を感じず、参加意欲が低下している
  • 労働者が早期退職した場合、企業拠出分の返還が必要となり、既納の税金の還付申請を求められる
  • 企業側も任意の福利厚生に対して税務上の手続き対応を余儀なくされる

13年以上据え置かれた税制優遇

税制優遇の上限額は100万ドン/月のまま2013年以降13年以上にわたって据え置かれています。同期間中、基礎賃金は2倍以上に引き上げられており、2013年から2025年にかけての年間インフレ率が1.8%から6.6%で推移してきたことを踏まえると、優遇額の実質価値は大幅に目減りしています。インフレに連動しない優遇制度は、本質的に時間の経過とともに自ら効果を失う政策であると指摘されています。

アメリカの401(k)、イギリスの所得控除制度、オーストラリアの積立年金制度(Superannuation)はいずれも、定期的に調整される柔軟な税制優遇を設けることで、年金基金を民間向け長期資金の大きな供給源として育ててきています。

政令案における優遇額の引き上げ

人民公安新聞の2026年4月3日付記事によると、財務省は個人所得税法第109/2025/QH15号の施行細則を定める政令案を策定中です。同案では、追加年金保険・任意年金保険・生命保険への拠出に係る所得控除の上限額を、現行の100万ドン/月から300万ドン/月へ引き上げることが提案されており、直近および今後の経済指標の動向への対応を理由として挙げています。

本記事のまとめ(図解)

ベトナムにおける採用や人事労務に関するお悩みがございましたら、お気軽にご相談ください。

※本記事は、公開時点の情報を参考に作成しており、今後変更となる可能性があります。また、具体的な運用は管轄機関によって異なる可能性があるため、実務上は事前にご確認をお願いいたします。

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