ベトナムでは、工場の人手不足が続いており、特に外国直接投資(FDI)が集中している地域では、賃金や賞与、福利厚生を引き上げても、一般労働者や熟練人材の確保は容易ではありません。その中でもバクニン省では入社時に支給する報奨金の金額が前年同期比で約2.5倍になっているケースが見られます。
本記事では、全国的な製造業の人手不足の要因に加えて、北部FDI工業集積地であるバクニン省について、採用競争の実態や賃金・テト賞与の水準を紹介します。
工場で人手不足が続く背景
労働供給の構造的要因
Tuoi Tre紙の2026年1月6日付記事によると、2026年の旧暦正月(テト)を前に、主要な工業団地では輸出向け受注に対応するため多くの工場がフル稼働していますが、賃金や賞与、福利厚生を引き上げても一般労働者(専門的な技能や高等教育を前提としない、いわゆる単純作業に従事する労働者)の確保は容易ではありません。人材サービス企業の幹部は、労働市場への新規参入構造そのものが、人手不足の要因になっていると説明しています。
- 新たに労働市場に参入する人材の約70%は、中級・高等教育機関(中等専門学校、短期大学、大学)への進学、または進学継続を選択
- 直接就業する人材は約30%にとどまる
- その30%のうち、約15〜25%は以下の進路を選択
- 留学
- 海外就労
- TikTok、Facebookなどでのライブ販売
- 配車アプリの運転手
- 家業・伝統産業への従事
賃金上昇だけでは解消しない採用難
この結果、一般労働者として市場に新たに供給される人数は限られ、人手不足が生じています。労働者の選択肢が広がっていること自体は前向きな変化とされる一方、特にテト前の繁忙期には、賃金や手当を引き上げても短期間で大量の単純労働者を確保することが難しい状況です。
また、住宅を借りる必要がなく、家族への仕送りといった経済的な負担を抱えていない人々では、生活上の切迫感が小さいため、仕事を選ぶ際により慎重になる傾向が見られます。さらに、多くの工業用地や新たな企業が相次いで開設される中、他省から労働者を呼び込むための政策が欠けた場合、労働力不足は今後も続くとしています。その上で、企業が賃金や賞与の引き上げによって人材獲得を競い合えば、人件費が上昇し、同一地域内で同様の業務に従事する労働者の間でも賃金水準に大きな差が生じると指摘されています。
バクニン省における労働需要
バクニン省第1雇用サービスセンター(旧)の幹部は、同省における労働需要の規模と構成について、以下の数値を示しています。
- 2026年の労働需要:約180,000人
- 一般労働者の比率:全体の80〜85%
- 需要が集中する分野:電子、縫製
- 省の人口規模:約3,600,000人
- 労働力人口:約1,900,000人
これに先立つ2023〜2024年には、バクニン省における人材需要が大きく増加しており、特に台湾、中国、韓国のFDI企業で顕著でした。これらの企業は事業の成長スピードが速く、生産工場の拡張や高付加価値の受注増加に伴い、短期間で大量の人材を採用する必要に迫られていたとされています。
現在、バクニン省第1雇用サービスセンター(旧)では、企業と求職者を結び付けるため、対面およびオンラインによる就職説明会・職業紹介イベントを継続的に開催しています。対象となる労働者は、ハノイ市、タイグエン省、ランソン省、ラオカイ省、トゥエンクアン省、ニンビン省、フート省など、周辺各省市から集められています。
バクニン省で深刻化する熟練労働者不足
製造業で表面化する採用難の実情
VnExpress紙の2026年1月16日付記事によると、北部有数のFDI工業集積地であるバクニン省では、製造業を中心に熟練労働者や経験者の不足が深刻化しています。省内のリチウムイオン電池製造企業では、新工場稼働に伴う採用が計画通りに進まず、特に技術系人材の確保が難航しています。同社における採用状況は以下の通りです。
- 必要人員:技術者・生産要員 約150人
- 1か月での採用実績:60人
- 充足率:約40%
- 応募がほとんどない職種:技術スキル保有者、組長クラス、外国語対応可能人材
- 入社後3日以内の離職率:最大40%
- 欠員を見越した採用計画:必要数の2~3倍
年末にかけて多くの工場が同時期に人材確保を進めるため、採用競争は一段と激しくなっています。
拡大する採用需要と労働市場データ
労働市場全体でも、採用拡大と人材不足が同時に進行しています。民間の求人・採用プラットフォームによる調査では、多くの企業が人員増強に動く一方で、経験や技能を持つ人材の確保に課題を抱えている状況が示されています。
- 採用を拡大している企業:約70%
- そのうち大幅増員を実施:50%
- 企業が抱える主な懸念
- 経験者不足:47%
- 基礎的スキル不足:42%
バクニン省の産業集積と雇用規模は以下の水準にあります。
- 2025年のFDI誘致額:55億USD(全国第3位)
- 稼働中の工業プロジェクト数:約3,400件
- 就業者数:約830,000人(多くが省外出身)
- 工業用地の充足率:55%超
- 2025年下半期の採用需要:191,000人(バクニン省雇用サービスセンター)
工場拡張が続く中、テト前後や年初に労働力不足が顕在化しやすい状況です。
採用施策と定着への取り組み
労働者を確保するため、企業は即時性の高い報奨金を手厚く支給しています。バクニン省内の主な施策例は以下の通りです。
- 自己応募・社内紹介で入社し4か月勤務した場合
- 入社者への報奨金:9,000,000VND
- 紹介者への報奨金:4,000,000VND
- 報奨金水準:前年同期比 約2.5倍
- 募集手法:TikTok、Facebookでのライブ配信による条件説明
ただし、上記の報奨金の水準は平均的であり、より高額な報奨金を支給している企業もあるとされています。
一方で、新規採用への手厚い報奨は、既存従業員が比較して不満を抱く要因となる場合もあります。このため、企業は定着策を強化し、長期勤続者への支給水準を引き上げています。
- 勤続5~10年の労働者への支給額
- 現在:5,000,000~8,000,000VND(従来は2,000,000~3,000,000VND)
さらに、韓国商工会議所(KOCHAM)は、バクニン省やタイグエン省、ハノイなどの地域において、製造分野の人材が不足しており、特に技能を持つ労働者や中間管理職の確保が難しくなっているとしています。また、こうした地域では転職が頻発しており、企業は人材の定着や教育にかかるコストの増加に直面しているとした上で、FDI投資が拡大すれば、人材を巡る競争はさらに激しくなるとの見方を示しています。
バクニン省における賃金とテト賞与
2025年の賃金水準と調査概要
Tuoi Tre紙の2025年12月25日付記事によると、バクニン省内務局は、同省における2025年の賃金状況および2026年のテト賞与計画について報告しました。調査は、約1,300社が雇用する643,000人超の労働者を対象としており、同省全体の労働者の約80%を占めています。2025年の賃金水準は以下の通りです。
- 平均月給:9,987,000VND/人
- 最高月給:461,000,000VND/人(外資系企業〈FDI〉)
2026年テト賞与の支給状況
2026年の西暦正月については、778社が約325,000人に賞与を支給する計画とされています。支給水準は以下の通りです。
- 平均賞与額:560,000VND/人
- 最高額:219,000,000VND超/人(民間企業)
- 最低額:100,000VND/人
一方、旧暦正月については、1,200社超が511,000人以上に賞与を支給する予定とされ、賞与水準は以下の通り整理されています。
- 平均賞与額:7,880,000VND/人
- 最高額:400,000,000VND/人(FDI企業)
- 最低額:100,000VND/人
具体的な賞与事例
バクニン省の縫製企業では、2026年の旧暦正月に向け、縫製労働者に対して年間の実収入総額の20%を賞与として支給する計画が示されています。支給方法は以下の通りです。
- 支給基準:年収の20%
- 支給例:
月給10,000,000VND(年収120,000,000VND)の場合
→テト賞与:24,000,000VND
この水準は、従来の「月給1か月分の135%」を上回るものとされています。企業側は、賃金や賞与、福利厚生の充実が人材の定着につながるとの考えを示しており、あわせて以下の制度も導入しています。
- 採用奨励金
- 技能等級に応じた賞与
- 経験者を対象とした勤続年数加算制度
一方、バクニン省の電力機器関連企業では、2026年の旧暦正月において、13か月目給与に加え、売上実績に応じた賞与を支給する予定です。賞与の内容は次の通りです。
- 支給内容:
- 13か月目給与
- 売上実績に応じた賞与:約3〜4.5か月分
- 技術職労働者の平均月収:12,000,000〜15,000,000VND
さらに、企業と労働組合が連携し、以下のような労働者向け施策も実施・検討されています。
- 健康診断の実施
- ワクチン接種の実施
- 交代勤務手当の見直し
- 重労働・有害業務手当の引き上げ検討
- 通勤補助の改善検討
おわりに
ベトナムの製造業における工場の人手不足は、全国的に共通する課題であると同時に、バクニン省のような工業集積地ではより深刻な形で表れています。賃金や賞与の水準は上昇しており、労働供給の制約や人材のミスマッチと合わせて、採用環境は引き続き厳しい状況にあります。今後も最新動向をお届けしていきます。
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