2025年上半期、ベトナムの銀行業界では約3,000人(約1%)の人員が減少し、ここ数年で最も大きな変化となりました。AI導入とデジタル化の加速により、従来の職種が整理される一方で、AIやデータ分析など新しい領域を担う「デジタル人材」へのシフトが進んでいます。銀行業界は今、効率化と人材転換の両立という大きな課題に直面しています。
本記事では、銀行各社で進む人員構成の変化、AIがもたらす雇用構造の再編、そして今後求められるスキルについて紹介します。

ベトナム銀行業界の人員削減と構造転換
業界全体で約3,000人(約1%)減少
Tuoi Tre紙の2025年8月10日付記事によると、28の銀行の財務報告を集計した結果、業界全体の人員数は約280,000人に上りました。2025年上半期には約6,000人が削減され、新規採用を差し引くと実質的に約3,000人(約1%)の人員が減少。上半期としては近年で最も大きな減少幅となりました。特にリテール(小売)部門を中心とする銀行で削減が目立っています。
主要銀行の人員変動は以下の通りです。
- LPBank:1,986人減(全従業員の約18%減少・前年は562人増)
- VIB:1,186人減(前年は約500人減)
- Sacombank:1,158人減(前年は354人減)
- ACB:607人減
- ABBank:469人減
- Agribank:273人減
- Vietcombank:191人減
一方、VietinBankは2025年前半に複数の支店を閉鎖したものの、総人員は15人増(計22,507人)と横ばいに近く、採用を継続した銀行の中では最も増加幅が小さいとされています。
背景にあるデジタル化と業務構造の転換
銀行業界の人員削減は、単なるコスト削減ではなく、デジタル化と業務構造の変化に伴う再編の結果とみられます。銀行戦略の専門家は「過去から続くデジタル化の流れが顕在化したものであり、特に小売銀行での影響が大きい」と指摘します。
多くの銀行は個人向け融資から法人向け融資へのシフトを進めており、住宅ローンや自動車ローンなどの個人向け業務では自動化が急速に進展しています。同専門家は続けて、「以前は一人の職員が1か月に5件ほどしか処理できなかった自動車ローンも、現在ではシステムの自動化により、より多くの案件を扱えるようになった」と説明します。
このように申請から承認までの電子化が進んだことで、書類作業や承認手順の効率化が進展しました。さらにオンライン本人確認(eKYC)の導入により、窓口業務の人員削減も進んでいます。一方で、法人向け融資業務は自動化が難しく、引き続き人手が求められる領域とされています。
人員削減の動き、AIが引き金に
銀行業界の人員削減の背景には、コスト削減と業務効率化を目的としたAI(人工知能)の導入拡大があります。欧米の大手銀行ではすでにAIによる業務代替が進み、多くの職種で人員削減が発生している一方で、ベトナムではその影響はまだ初期段階にとどまっていますが、専門家は「今後3年以内にAIの影響が本格化し、銀行業界全体で大きな変動が起こる」と指摘しています。
同専門家によれば、過去5年間のベトナム銀行業界では従業員数の年間平均増加率がわずか1〜2%にとどまる一方、平均収入は10〜15%増加しており、生産性の上昇が数字にも表れています。これは、AIや自動化技術の活用により、少人数でもより多くの業務を処理できるようになったことを示しています。
シンガポールの大手銀行DBSは、今後3年間で約4,000人(全体の約10%)の削減計画を発表し、AIを主な要因として挙げました。ベトナムではまだ直接的な削減は限定的ですが、専門家は「国際的な動向から数年遅れて、2027年頃には同様の構造調整が起こる可能性がある」と見ています。この場合、ベトナム国内の主要銀行全体で約10%の人員削減が行われる可能性があり、現在の1〜2%減とは比べものにならない規模になると予測されています。
消える職種と生まれる新しい仕事
HSBCベトナムの人事責任者は、世界経済フォーラム(WEF)の「Future of Jobs 2025」報告書を引用しながら、銀行の窓口担当者や秘書職が最も高い失職リスクを抱えていると述べています。スマートフォンアプリを通じた口座開設の完全デジタル化が進み、顧客が支店を訪れる必要がなくなったこと、AIがデータ分析や不正検知を自動で行うようになったことが主な理由です。その結果、データ入力や定型報告などの繰り返し業務は急速に自動化されつつあります。
一方で、「テクノロジーは仕事を奪うだけでなく、新しい職種を生み出す側面もある」と強調します。WEFの予測によれば、金融業界は今後さらにAIを積極的に活用し、次のような専門人材の需要が高まると見込まれています。
- ビッグデータ分析の専門家
- AI・機械学習のエンジニア
- サイバーセキュリティ管理の専門家
UOBベトナム銀行の部門長も、「自動化によって伝統的な業務は減るが、顧客との関係構築や交渉、提案といった人間ならではの役割は依然として重要だ」と述べ、テクノロジーと人間の橋渡しができる人材の価値が高まると指摘しています。
銀行業界のデジタル人材シフト
学生の不安と専門家の見方
VnExpress紙の2025年10月9日付記事によると、2025年上半期の人員削減に、多くの学生が将来の就職機会に不安を感じています。ハノイの大学で銀行学を専攻する1年生も、「今でもこれだけ人が減っているのに、4年後の就職はどうなるのか」と心配を口にしています。
しかし、10月8日に開催された「AI時代における人材育成」セミナーで専門家らは、「心配しすぎる必要はない」と強調しました。人員削減は主にデジタル化と自動化の進展によるものであり、逆に言えば「デジタルスキルを持つ人材は不足している」というのが実情だと指摘しています。
AI・データ分析を扱える人材が不足
Agribankの人材育成学校長は調査結果を踏まえ、「自動化されていない従来の仕事の約56%は今後消える一方で、テクノロジー関連の新しい仕事の65%が新たに生まれる」と指摘しています。同氏は、銀行業界で余剰とされるのはAIやデジタルツールを扱えない人材であり、反対に不足しているのはデータ分析・情報技術・AI応用のスキルを持つ人材だと述べています。
また、銀行学院の情報技術・デジタル経済学部長も、ベトナムでは年間15万〜20万人規模でIT人材が不足しており、その中でもAI関連分野の欠員が特に深刻だと指摘しています。
銀行業界ではすでに2021年からデジタル化が本格化しており、現在では多くの取引の90%以上がオンラインで完結しています。今後2030年に向けては、AI・ブロックチェーン・ビッグデータなどの技術を融合した「スマート金融エコシステム」の構築が進められる見通しです。
「AIを使いこなす力」はすべての職種に必須
各大学ではすでにAI関連科目の導入が進んでおり、銀行学院では1年次から「デジタル応用能力」「情報システム管理」「データ分析」といった科目を必修としています。同学院の情報技術・デジタル経済学部長は、「大学の授業だけでは不十分であり、自分に合った学習計画を立て、継続的にスキルを磨く必要がある」と強調しています。その手段として、Coursera、Udemy、Great Learning、edXなどのオンライン学習プラットフォームの活用を推奨しています。
Agribankの人材育成学校長は、「AIの活用はIT部門だけの仕事ではなく、すべての銀行員に求められるスキルであり、どんな業務でも、どうすれば自動化できるか、どのAIツールを使えば生産性を高められるかを常に考えることが重要だ」と指摘しています。
さらに、VietinBankのデータ&AI部門副部長は、AI時代に必要とされるのは「AIを正しく問い、活用できる知的基盤」であり、AIを使いこなす能力こそが今後の職業人としての生存条件になると語っています。
おわりに
ベトナムの銀行業界では、人員削減と同時に、AIやデジタル分野に対応できる人材の育成が喫緊の課題となっています。効率化の波は止められませんが、その一方で新たな価値を生み出す人材の確保が今後の競争力を左右すると考えられます。
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※本記事は、公開時点の各ニュースソースを参考に、主要なポイントを編集・再構成したものです。概要の紹介を目的としており、最新情報は公式発表などのご確認をお願いいたします。

