2025年5月にベトナム統計総局(GSO)が発表した2024年世帯生活水準調査は、全国63省・市・46,995世帯を対象に家計の実態を明らかにしました。全国の1人当たり平均月収は542万ドンで、2023年より9.1%増。2022年→2023年の上昇率は6.2%だったため、今年は上昇ペースが加速した形になります。本記事では、平均月収に関する調査結果とその背景、GDPと所得の乖離について紹介します。
全国・都市/農村別の所得概況
2024年の全国平均月収(1人当たり)は542万ドンとなり、前年(2023年)の496万ドン、一昨年(2022年)の466万ドンから着実に増加しています。2年間で約16%の伸びとなりました。
内訳をみると、
- 都市部:689万ドン(前年から+10.1%)
- 農村部:451万ドン(前年から+8.0%)
都市と農村の格差は依然として大きく、都市部の所得は農村部の1.5倍以上に達しています。
地域別に見ると、工業が集中する東南部が708万ドンで全国最高。一方、山岳地域を多く抱える北部中山間地域は376万ドンにとどまり、地域間の所得格差が依然として大きいことが分かります。
家計規模と扶養比率の変化
この調査では、家計の構成に関するデータもあわせて公表されています。
2024年の全国の平均世帯人数は3.5人で、
- 都市部では3.4人
- 農村部では3.6人
となりました。前年(2023年)と比べて世帯人数はやや減少しています。
また、扶養比率(非労働力人口÷労働年齢人口)は0.70となり、前年の0.73からわずかに低下しています。これは、働く世代1人が支える扶養人数がやや減ったことを示しています。
省別ランキングと地域格差(平均月収・上位10省・市)
所得水準の高い上位10の省・市には、工業団地や港湾を擁し、産業集積が進んだ地域が並びました。これらの地域では、インフラ整備と企業誘致が所得の押し上げに寄与していると考えられます。
- 1位 ビンズオン省 894万ドン
- 2位 ハノイ市 755万ドン
- 3位 ドンナイ省 715万ドン
- 4位 ホーチミン市 711万ドン
- 5位 ハイフォン市 703万ドン
- 6位 ダナン市 671万ドン
- 7位 カントー市 605万ドン
- 8位 ナムディン省 593万ドン
- 9位 ニンビン省 590.2万ドン
- 10位 クアンニン省 590万ドン
対照的に、中部高原地域や北部山岳地域の多くは全国平均を下回っており、インフラ投資や産業誘致の有無が地域の所得水準を左右していることが、改めて明らかになりました。
ビンズオン省が突出する理由
少し前の記事になりますが、Tuoi Tre紙の2021年6月1日付記事によると、ビンズオン省が全国で最も高い平均月収を維持している理由として、次の4つの要素を挙げています。
積極的な工業化とFDI(海外直接投資)誘致
ビンズオン省は、工業団地の整備と海外資本の誘致(FDI)に力を入れてきた地域です。FDIとは「Foreign Direct Investment(海外直接投資)」の略で、外国企業が現地に工場やオフィスを設立し、事業を直接運営する投資形態を指します。
2021年時点で、ビンズオン省には30を超える工業団地が設置されており、約4,000社の外資系企業が進出。累計のFDI投資額は365億米ドルにのぼり、ベトナム国内でも有数の投資集積地となっています。こうした工業化と外資導入の取り組みが、地域経済の活性化と高水準の所得に大きく貢献しています。
若年の移住労働者が多数流入
省全体の人口のうち、およそ52%が他地域からの移住者で、多くは単身での就労者です。こうした世帯構成により、統計上の1人当たり所得が高く出やすい傾向があります。
実勢賃金の高さ
最低賃金の法定水準に比べ、実際の給与水準は大幅に高く、技能工であれば残業込みで月収1,000万ドン近くになるケース(2021年当時)もあるとされています。
中間層・外国人専門職の定着
国際学校や日系を含む外資系のサービス業も進出しており、外国人専門職や中間層の居住者が増加。これにより、高付加価値な雇用や消費活動が地域経済をさらに押し上げています。
こうした産業誘致の成果と人口構造の特徴が重なり合うことで、2024年には、ビンズオン省の平均月収は全国平均の約1.7倍という高水準に達しました。経済・労働両面の好循環が、同省の突出した所得水準を支えているといえます。
GDPと家計所得が乖離する背景と、その是正に向けた方向性
一方、Tuoi Tre紙の2025年6月7日付記事によると、ベトナム統計総局(GSO)の2024年家計生活水準調査の結果をもとに「国民が実際に享受する所得は、国民一人当たりGDPの約57%にとどまる」と指摘しました。これは、経済成長の数字と国民の生活実感の間に大きな乖離があることを示しており、とくにホーチミン市やハノイ市などの主要経済の中心地では、所得がGDPの31〜56%程度しか地域に還元されていないという状況となっています。
所得とGDPの乖離を生む5つの要因
FDI(海外直接投資)依存の産業構造
外資系企業が主導する経済構造では、企業が生み出した利益の多くが配当や償却といった形で国外に移転されており、地域に十分な所得として還元されていません。
資本集約型の投資偏重
機械や技術への投資によって生産性は高まっているものの、質の高い雇用が増えておらず、労働の成果が労働者の所得として十分に分配されていない状況です。
出稼ぎ労働者の移動
工業地域で働く人々の多くは他地域からの移住者であり、彼らの所得は出身地の家計に記録される一方、GDPは勤務地の地域で計上されるため、地域ごとのGDPと家計所得が一致しないという統計上のずれが生じています。
現行の中央・地方間の財政配分制度
税収や歳出の多くが中央に集約される一方で、地方に残る資金は限られており、地域が自らの経済成長の成果を活かしにくい制度的課題があります。
インフォーマルな就労と無保険者の多さ
非公式な仕事や社会保険に加入していない労働者が多く、こうした働き方は統計上把握されにくいため、実際の所得水準と公表される数値の間にギャップが生じています。
乖離を縮小するための4つの政策方向
労働分配率を高める政策
地域の実情に即した柔軟な最低賃金制度を整備し、地元雇用や人材育成に積極的な企業に対して税優遇を行うといった措置により、労働者への付加価値の還元を高める必要があります。特に、FDI企業に対しては地域社会への具体的な貢献を求める仕組みの構築が重要です。
生活インフラの整備による労働者の定着促進
出稼ぎ労働者が働く地域に定住し、所得がその地域にとどまるようにするためには、社会住宅や教育、医療といった基本的なサービスの整備が不可欠です。
税と社会保険を通じた所得再分配の強化
所得税や社会保険料を活用し、教育、医療、職業訓練といった分野への再投資を進めることで、人的資本を育成しつつ格差是正を図ることが求められます。
統計データの整備と連携の強化
居住地、雇用状況、所得、企業情報などの関連データベースを統合し、実際の所得の流れを正確に把握できる統計体制を構築することで、より実効性のある政策立案が可能になります。
おわりに
2024年の世帯生活水準調査では、ベトナムの家計がコロナ禍を乗り越えて着実に所得を伸ばしている一方で、都市と農村、地域ごとの格差や、GDPと実際の家計所得の乖離といった構造的な課題も見えてきました。また、本調査では全国の平均月収も算出されていますが、たとえば単身世帯が多い場合には、統計上の1人当たり所得が実態よりも高く見えることがあります。さらに、インフォーマルな就労などにより、実際の所得が十分に反映されていない可能性もあります。こうした点を踏まえたうえで、データをご参照いただければ幸いです。
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※本記事は、公開時点の各ニュースソースを参考に、主要なポイントを編集・再構成したものです。概要の紹介を目的としており、最新情報は公式発表などのご確認をお願いいたします。

