ベトナム北部では採用一時金の相場が高騰しています。昨年の最高水準だった3か月700万ドンが今年の標準となり、1,000万〜1,200万ドンを提示する企業も出始めています。1人当たりの採用コストが2,050万ドンに達するケースも登場しており、人材争奪戦はさらに激しさを増しています。
本記事では、採用一時金が跳ね上がった背景とベトナム労働市場の変化について紹介します。
FDI企業、採用一時金を積み増して人材確保
350kmを越えて求職者が集まる理由
VnExpress紙の2026年3月26日付記事によると、3月中旬、ゲアン省から350km以上かけてバクニン省クアンチャウ工業団地の縫製工場に応募した20歳の女性の事例が報告されています。彼女は地元の電子部品工場で基本給540万ドン、各種手当を含め約700万ドンを得ていましたが、残業なしでは生活が厳しい状況だったといいます。
応募先のCrystal Martin Vietnam社(香港系アパレル企業グループ傘下)の待遇は以下のとおりです。
- 縫製研修生の基本給:約600万ドン
- ライン配属後:約630万ドン
- 採用一時金(入社後3か月):600万ドン
- 初回応募者向けの「新工場ボーナス」(6か月):450万ドン
- 社内紹介者向けの報奨金(3か月):600万ドン
同社の人事責任者によると、「毎日の面接応募者の75%が社内紹介経由」で、新規採用・社内紹介の両方を合算すると、1人を採用するためのコストは最大2,050万ドンに上るとしています
電子業界が需要の7割、縫製業は人手不足に
バクニン省雇用サービスセンターの統計によると、省内のFDI工場拡大に伴い、電気・電子・縫製・建設などの分野で33万4,000人の労働需要が生じています。大手電子企業の採用予定数は次のとおりです。
- Goertek Vina:12万人
- Fukang:6万人
- Luxshare:4万人
- Newwing Interconnect Technology:1万2,000人
電子分野が採用需要全体の70%を占める中、縫製業は12%に過ぎず、人手不足に直面しています。
採用一時金の水準も年々上昇しており、昨年は3か月間で700万ドンが最高水準だったものが、今年はそれが標準化し、1,000万〜1,200万ドンを提示する企業も出始めています。Quang Châu・Vân Trung工業団地に4工場以上を持つある電子企業は、2月末から3月末までの期間限定で社内紹介・新規採用の合計報奨金を最大1,800万ドンに設定しています。
また、Fushan Technology Vietnam社は採用一時金として1,100万ドンに加え、初月勤務後に30万〜70万ドンの交通費を支給し、5,000人の正規工員を募集しています。同社の採用担当管理職によると、年末までに総人員を約1万6,000人とする計画で、生産ラインから技術・品質管理・生産管理職まで採用を拡大しているとのことです。
一時金頼みの限界と、定着策への模索
Từ Sơn市内のある電子企業では、社外エージェント向けにも報奨金制度を設けており、紹介者が4か月勤務を満了した場合に500万ドン(月次払い:150万・150万・100万・100万ドン)を支払う仕組みを導入しています。同社の採用担当者によると、第2四半期だけで4万人の確保が必要であり、ディエンビエン省(拠点から500km超)まで採用チームを派遣しても十分な人材が集まらない状況といいます。
採用担当者は「各企業のHR担当者同士が連絡を取り合い、時期に応じた報奨金の上限・下限を調整している」と述べており、繁忙期は5月から10月にかけてで、その時期には報奨金がさらに引き上げられる可能性があるとしています。3月はすでに繁忙期に位置づけられています。
Crystal Martin Vietnamの人事責任者は、採用費・広告費・担当人件費などの「採用に投じるコストが顕著に増加している」と認めつつも、長期的には福利厚生の充実が不可欠だと強調しています。同社では旧バクザン省内の工員向けにバス送迎(半径60km圏内)や金属探知ゲートのない職場環境などを整備しています。
一方で、縫製工場では熟練工が生産性報奨金を加えた月収1,500万〜2,000万ドンに達するケースもあり、5〜7年、あるいは10年以上在籍する工員も珍しくありません。同責任者は「一般工員の確保は今後ますます困難になり、新規採用競争はさらに激化する」と予測しており、採用一時金は生産コストへの影響と定着率の低さから、長期的な解決策にはなり得ないと述べています。
FDI投資が労働市場を塗り替えている
求職者は多くても、スキルが合わない現実
Nguoi Lao Dong紙の2026年3月18日付記事によると、FDI投資の加速を背景に、労働需要が急増しています。2025年の実行済みFDI資本は約277億2,000万米ドルと過去5年間で最高水準を記録しました。その80%超が製造・加工業に集中しており、同部門はGDPの約20%、輸出総額の70%超を占め、数百万人規模の雇用を創出しています。FDI企業で働く労働者数は約360万人に上るとされており、FDI投資が加速するにつれて労働需要も急増する構造となっています。
一方、ベトナムの労働力人口は5,200万人超(全人口の68%)と大規模であるものの、技能資格を持つ労働者の比率は国際的な評価によれば依然として低い水準にあります。FDI企業はテクノロジー・自動化・サプライチェーンの分野を中心に高度なスキルを求めるようになっており、企業は人材不足に直面しながら、労働者側は質の高い仕事を見つけにくいという逆説的な状況が続いています。
高額の報奨金は、こうした急増する需要と質の面でのミスマッチを抱える労働市場において、人材を確保するための手段として機能しているとみられています。
高い報奨金は「良い仕事」を意味しない
「高い報奨金」が「良い仕事」を意味するわけではありません。多くの報奨金は月数や生産性などの条件に紐づけて分割支給される形をとっており、職場環境が改善されなければ、「転職→再採用→再び人材不足」という悪循環を生む可能性があります。
長期的には以下の三つが課題となっています。
- 成長モデルの転換:安価な労働力への依存が限界に近づき、採用コストの上昇が低コスト優位性を侵食しつつある
- 人材の質がボトルネック:技術者・エンジニア・専門家を必要とする高品質FDIの波を逃すリスクがある
- 労働市場の構造変化:「仕事を探す人」から「人を探す仕事」へ転換。スキルアップなしには高付加価値ポジションから排除されるリスクが高まっている
採用一時金の高騰は一時的な現象ではなく、ベトナム労働市場が「余剰から局所的な不足へ」「数の優位から質への圧力へ」と移行しつつある構造変化の表れとされています。
本記事のまとめ(図解)

ベトナムにおける採用や人事労務に関するお悩みがございましたら、お気軽にご相談ください。
※本記事は、公開時点の情報を参考に作成しており、今後変更となる可能性があります。また、具体的な運用は管轄機関によって異なる可能性があるため、実務上は事前にご確認をお願いいたします。

