2025年7月、財務省は個人所得税制度の見直しに関する法改正案を公表し、意見募集を実施しました。これは、2009年に現行の個人所得税法が施行されて以来、実に17年ぶりとなる大規模な見直しであり、税率表や控除制度など幅広い項目が検討対象となっていました。
その後、2025年10月17日には国会常務委員会にて基礎控除および扶養控除の引き上げが可決され、2025年12月10日には国会にて税率表の見直し・簡素化について可決されました。
本記事では、この中でも多くの納税者に影響のある「税率表」と「基礎控除・扶養控除」に焦点を当てて最新動向を整理します。
税率表の見直し:7段階から5段階へ
現行制度の課題とは?
VnEconomy紙の2025年7月21日付記事によると、現在の個人所得税制度では、所得に応じて税率を段階的に適用する累進課税方式が採用されており、以下のような7段階の税率となっています。
| 税率区分 | 課税所得・月額 | 税率 |
| 1 | 〜500万ドン | 5% |
| 2 | 〜1,000万ドン | 10% |
| 3 | 〜1,800万ドン | 15% |
| 4 | 〜3,200万ドン | 20% |
| 5 | 〜5,200万ドン | 25% |
| 6 | 〜8,000万ドン | 30% |
| 7 | 8,000万ドン超 | 35% |
現行の累進課税方式については、段階数が多すぎるうえに各段階の所得幅が狭く、年末に収入を合算した際に税率が跳ね上がって納税額が増える結果になるなど、制度として合理性に欠けるとの意見も出ています。
こうした指摘を受け、財務省は現在の税制構造や今後の国民の生活水準の向上傾向をふまえ、税率の段階数を現行の7段階からより適切な水準に減らすことを検討可能としています。
あわせて、各段階における所得の幅を広げることにより、高所得者層に対してはより適切な税負担となるように再設計を提案しています。
財務省が示す2つの改正案
これを受けて、財務省は現在の7段階の税率を5段階に削減する以下の2つの案を提示しています。いずれの案も、低所得層には一定の減税効果が見込まれており、高所得層への対応方法に違いがあります。
案1
| 税率区分 | 課税所得・月額 | 税率 |
| 1 | 〜1,000万ドン | 5% |
| 2 | 〜3,000万ドン | 15% |
| 3 | 〜5,000万ドン | 25% |
| 4 | 〜8,000万ドン | 30% |
| 5 | 8,000万ドン超 | 35% |
案2
| 税率区分 | 課税所得・月額 | 税率 |
| 1 | 〜1,000万ドン | 5% |
| 2 | 〜3,000万ドン | 15% |
| 3 | 〜6,000万ドン | 25% |
| 4 | 〜1億ドン | 30% |
| 5 | 1億ドン超 | 35% |
共通する見直し点
- 最低税率5%の適用範囲は、課税所得(月額)1,000万ドン以下とする。
- 各税率の適用所得幅を拡大し、税率の段階数を7段階から5段階へと減らす。
- 最高税率は現行と同様に35%を維持する。
案1と案2の違い
- 案1では、月額8,000万ドンを超える課税所得に35%が適用される。
- 案2では、月額1億ドンを超える課税所得に35%が適用される。
つまり、案2の方がより高所得者に対して税負担が緩やかになる仕組みとなっています。
減税効果
財務省が案1にもとづいて公表した試算によると、課税所得が月額1,000万ドンの納税者は約25万ドン、月額3,000万ドンの場合は約85万ドン、月額4,000万ドンの場合は約75万ドンの減税効果があるとされています。
一方、案2が適用された場合、月額5,000万ドン超の課税所得を有する納税者にとっては、案1よりもさらに大きな減税効果が期待されます。ただし、案2は高所得層の減税幅が大きくなる分、国家予算への影響もより大きくなると見られています。
財務省は案2を政府へ提出
VnEconomy紙の2025年9月5日付記事によると、財務省は個人所得税法(改正案)において、現行の7段階を5段階に簡素化する案を政府に提出しました。この提出案は、既に公表済みの改正案のうち案2を採用したもので、最低税率は課税所得(月額)1,000万ドン以下に5%、最高税率は課税所得(月額)1億ドン超に35%を維持する内容です。
| 税率区分 | 課税所得・月額 | 税率 |
| 1 | 〜1,000万ドン | 5% |
| 2 | 〜3,000万ドン | 15% |
| 3 | 〜6,000万ドン | 25% |
| 4 | 〜1億ドン | 30% |
| 5 | 1億ドン超 | 35% |
財務省は、この提出案の説明の中で、タイ・インドネシア・フィリピンが最高税率35%を維持しているほか、中国・韓国・日本・インドでは45%を維持していることを国際比較として挙げています。
2026年から税率区分の簡素化へ
VnExpress紙の2025年12月10日付記事によると、国会は個人所得税法改正案を可決し、個人所得に対する累進課税の税率区分を従来の7段階から5段階に縮小することを決定しました。また、税率区分の2および3については、提案内容から税率の引き下げ(15%→10%、25%→20%)となっています。
| 税率区分 | 課税所得・月額 | 税率 |
| 1 | 〜1,000万ドン | 5% |
| 2 | 〜3,000万ドン | 10% |
| 3 | 〜6,000万ドン | 20% |
| 4 | 〜1億ドン | 30% |
| 5 | 1億ドン超 | 35% |
新たな税率表は2026年の課税期間から適用され、2026年1月1日以降、企業は新税率に基づき月次または四半期ごとに源泉徴収を行い、2027年1月1日から3月31日までに2026年分の確定申告が実施されます。
基礎控除・扶養控除の2つの見直し案
ベトナム電子政府新聞の2025年7月22日付記事によると、現行制度は以下のように定められています。
- 本人に対する控除(基礎控除):月額1,100万ドン(年間1億3,200万ドン)
- 扶養家族1人あたりの控除:月額440万ドン
これは2020年に見直されて以降、5年にわたり据え置かれてきました。しかし、この間に物価や生活費は継続的に上昇しており、多くの納税者にとって、現在の控除水準では実質的な生活支援として不十分という声が上がっています。
こうした背景を受けて、財務省は扶養控除の見直しについても2つの案を提示しています。いずれも、2020年以降の経済指標の変動を根拠にしており、控除額を段階的に引き上げることで、生活水準に見合った税負担の調整を目指しています。
案1:消費者物価指数(CPI)に基づく調整
この案は、消費者物価指数(CPI)が20%以上変動した場合に控除額を見直すと定めた法律第26/2012/QH13号第1条第4項の規定に基づくものです。統計総局のデータによれば、2020年から2025年にかけてのCPI累積上昇率は約21.24%に達しており、今回の提案はこの基準を満たしているとされています。
具体的には、控除額の引き上げとして以下の水準が示されています。
- 本人に対する控除:月額1,330万ドン(年間1億5,960万ドン)
- 扶養家族1人あたりの控除:月額530万ドン
案2:所得およびGDPの伸び率に基づく調整
一方、もう1つの案は、CPIよりも広い観点から、国民1人あたりの平均所得や国内総生産(GDP)の伸びを考慮した調整案です。統計によると、2020年から2025年にかけての国民1人あたりの平均所得は約40%、GDPは約42%上昇しており、生活水準全体の底上げが進んでいることがわかります。
この案では、以下のように案1より大きな控除額が提案されています。
- 本人に対する控除(基礎控除):月額1,550万ドン(年間1億8,600万ドン)
- 扶養家族1人あたりの控除:月額620万ドン
控除額が大きくなることで、可処分所得が増加し、家計の消費拡大や社会全体の経済成長につながるという考え方です。ただし、国家予算の観点では、税収減の影響が案1よりも大きくなります。
財務省は案2を提案
VnExpress紙の2025年9月9日付記事によると、財務省は以下の所得およびGDPの伸び率に基づく案2を提案しています。
- 本人に対する控除(基礎控除):月額1,550万ドン(年間1億8,600万ドン)
- 扶養家族1人あたりの控除:月額620万ドン
財務省の試算によれば、
- 月額1,500万ドンの給与所得者は社会保険料等を差し引いた後、非課税となる。
- 月額2,000万ドンの給与所得者は、月額12万ドンの納税にとどまる。
- 扶養家族1人を有し、月額2,500万ドンの所得者は3万3,750ドン、月額3,500万ドンの所得者は26万5,000VNDの税額となる。
2026年から基礎控除・扶養控除引き上げへ
VnEconomy紙の2025年10月17日付の記事によると、2025年10月17日、国会常務委員会は個人所得税の本人に対する控除額(基礎控除)および扶養控除額の引き上げを正式に承認しました。新しい控除額は2026年の課税年度から適用される予定です。
改定内容と課税対象となる収入水準
控除額の引き上げは以下の通りです。
- 本人に対する控除(基礎控除):月額1,100万ドン → 月額1,550万ドン(+40.9%)
- 扶養家族1人あたりの控除:月額440万ドン → 月額620万ドン(+40.9%)
この改定により、個人所得税の課税が始まる月収の目安は次のようになります。
- 扶養家族なし:月収1,728万5,000ドン以上
(=1,550万[基礎控除]+178万5,000[社会保険料等控除(1,700万ドンの月収に対する10.5%)]) - 扶養家族1人:月収2,422万ドン以上
(=1,550万[基礎控除]+620万[扶養控除]+252万[社会保険料等控除(2,400万ドンの月収に対する10.5%)]) - 扶養家族2人:月収3,115万5,000ドン以上
(=1,550万[基礎控除]+620万×2[扶養控除]+325万5,000[社会保険料等控除(3,100万ドンの月収に対する10.5%)])
※「社会保険料等控除」とは、社会保険(8%)+健康保険(1.5%)+失業保険(1%)=計10.5%の本人負担分を指します。
現行制度に比べ約40%の引き上げとなり、2020~2025年の物価や所得の上昇を反映した改定です。
政策の背景と今後の見通し
財務省の試算によると、この改定により国家予算の歳入は年間約21兆VND減少しますが、政府は「物価上昇や実質所得の低下を踏まえ、国民の税負担を軽減する必要がある」と説明しています。家計の可処分所得を増やすことで個人消費を刺激し、経済成長を促進する効果が期待されています。当初は2025年からの適用を求める意見もありましたが、所得税法改正との整合性を考慮し、2026年課税年度からの適用が正式に決定されました。
おわりに
今回の法改正では、基礎控除および扶養控除の引き上げおよび税率表の見直し・簡素化が実現し、個人の税負担が軽減されることになります。これにより、生活の質の向上と消費の拡大が期待されています。今後も引き続き、最新動向をお伝えしてまいります。
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