ベトナムでは第2子を出産した女性労働者の産前産後休暇を、現行の6か月から7か月へ延長する制度が、2025年12月10日に国会で可決された人口法に盛り込まれました。同法は2026年7月1日から施行される予定です。
本記事では、2013年に産休が6か月へ延長された経緯も振り返りながら、出生率の低下を背景に議論されてきた7か月への産休延長の背景について紹介します。
2025年3月:第2子出産時の産休延長案
産休7か月案の概要と狙い
VnExpress紙の2025年3月11日付記事によると、保健省は、女性労働者が第2子を出産した場合の産前産後休暇を、現行の6か月から7か月へ延長する案を提案しました。母体の回復期間を確保するとともに、子どもの養育により多くの時間を充てられるようにすることが目的です。
この提案は、出生率が警戒水準まで低下している現状を踏まえ、国として「2人の子どもを持つ」ことを促すインセンティブ策の一つと位置付けられています。保健省の担当者は、7か月という期間について、国際的な事例の比較に加え、国家財政や社会保険制度の負担、経済・社会への影響、企業および労働者の意見を総合的に検討した結果であると説明しています。
実効性を巡る意見と現場の課題
一方で、提案に対する意見は分かれていました。産休を9〜10か月、あるいは1年に延ばすべきだとする声がある一方、現行の6か月でも十分だとする意見も見られます。特に民間企業では、長期休暇中の代替人員の確保が難しく、企業負担が大きいとの指摘があります。
人口分野の専門家は、現実には多くの女性労働者が、失職への不安や収入減少を理由に、6か月の産休を満了せず早期に職場復帰していると述べています。そのため、7か月へ延長しても、実際の利用が進まない可能性があるとしています。加えて、製造業や工業団地では、長期の産休が生産・事業活動に影響を与える点も課題として挙げられています。
低出生率への包括的対応の必要性
さらに、ベトナムの合計特殊出生率が1.91人と、東南アジアでも低い水準にあることが示されています。保健省によると、出生率が人口置換水準を下回る状況は3年連続で続いており、有効な対策が講じられなければ、2054年から2059年頃に人口がマイナス成長へ転じる可能性があるとしています。
こうした状況を踏まえ、専門家からは、産休延長だけでなく、出産・育児に対する財政支援や税制優遇、住宅支援、柔軟な働き方の導入、職場内保育所の整備などを組み合わせた対応が必要だと指摘されています。また、子育てを夫婦双方の責任とする社会的意識の転換も重要であり、包括的な政策を通じて出生率の維持・回復を図る必要があると報じています。
2025年10月:男性の産休延長も含む案
国会に提出した人口法案
VnExpress紙の2025年10月23日付記事によると、政府は第2子を出産した女性に対し、現行より1か月長い7か月の産前産後休暇を認める案を示しました。あわせて、配偶者である夫についても、出産時の休暇を5日追加する内容が盛り込まれています。
これらは、2025年10月23日に保健大臣が国会に提出した人口法案に含まれる施策の一部です。背景には、ベトナムの出生率が過去最低水準となり、女性1人当たりの出生数が1.91人まで低下している状況があり、夫婦が2人の子どもを持つことを促す狙いがあります。
現行の労働法と改正案の違い
現行の労働法では、女性労働者の産前産後休暇は原則6か月と定められています。双子以上を出産した場合には、第2子以降について1人につき1か月ずつ休暇が追加される仕組みです。
これに対し、今回の改正案では、第2子を出産した女性について、現行より1か月長い7か月の産前産後休暇を認めることが提案されています。
制度設計の考え方と実施上の課題
人口当局の担当者は、7か月という休暇期間について、国際的な事例の分析やベトナムの財源状況を踏まえて検討した結果であり、地域および世界全体と比較して中間的な水準に位置付けられると説明しています。また、制度設計にあたっては、社会保険基金や経済への影響を慎重に試算したほか、企業側および労働者側の意見も聴取されたとしています。
一方で、関連する住宅法、社会保険法、労働法との整合性が確保されなければ、制度が法的根拠や予算を欠いたまま実施できない可能性があるとの指摘も紹介されています。そのため、人口法の中で実施体制を明確にするとともに、関連法令の同時改正や、人口と発展に関する国家レベルの重点プログラムによる財源確保が必要であるとされています。
2025年12月:国会が人口法を可決
人口法の可決と施行時期
社会保険機関公式サイトの2025年12月10日付記事によると、国会は同日午前、出席議員450人中448人の賛成(94.71%)で、全8章30条から成る人口法を正式に可決しました。同法は2026年7月1日に施行されます。
同法は、家族計画を中心とした従来の政策から、人口と発展を重視する包括的なアプローチへ転換する内容となっています。
主な規定は以下の通りです。
- 人口に関する広報・教育の推進
- 合計特殊出生率の維持
- 出生時の性比不均衡の是正
- 高齢化への対応
- 人口の質の向上
- 人口政策を実施するための条件整備
産休制度の見直しと出生支援策
合計特殊出生率を維持するため、新たな政策が追加されています。
具体的には、以下の点が盛り込まれました。
- 女性労働者が第2子を出産した場合、産前産後休暇を7か月とし、現行制度と比べて1か月延長。
- 配偶者が出産した場合、男性労働者は10営業日の休暇が取得可能に。
また、財政支援策として、次の支援が規定されています。
- 少数民族の女性が出産した場合の支援
- 出生率が低い地域に居住する女性への支援
- 35歳未満で2人の子を出産した女性への支援
住宅政策との連動
さらに、実子が2人以上いる人については、以下の社会住宅に関する優先措置が定められています。
- 社会住宅の購入
- 購入を伴う賃借
- 賃借
これらの支援内容における具体的な給付水準は、各時期の社会経済状況に応じて政府が規定するとされています。人口法は、労働、雇用、賃金、社会保険、健康保険、各種給付、教育、医療、住宅などの分野と連動し、合計特殊出生率を安定的かつ持続的に維持するための政策枠組みを示しています。
過去に延長されてきた産休制度
産休期間を6か月とする2012年労働法
VnExpress紙の2011年9月17日付記事および社会保険機関公式サイトの2012年6月19日付記事によると、産休制度を含む改正労働法は2012年6月18日に国会で可決され、2013年5月1日から施行されることとなりました。
改正後は、女性労働者の産休期間(出産前後を含む)を一律6か月とし、従来の4か月から延長されました。出産前の休暇は最大2か月までとされ、双子以上を出産した場合には、第2子以降1人につき1か月の休暇が追加されました。
6か月への延長が支持された背景
産休期間を6か月とする案は、労働傷病兵社会省の法制部門が中心となって検討され、法案起草委員会、とりわけベトナム女性連合が強く支持していました。その理由として、国民の生活水準が改善し、労働や賃金に対する圧力が以前ほど強くなくなっている点が挙げられています。
また、産休期間を延ばすことで、生後6か月間にわたる完全母乳育児が可能となり、乳児の健康に寄与するとともに、母親が出産後に十分な回復期間を確保できるとされています。
産休期間が2ヶ月であった時代も
さらに、産休6か月案は2008年半ばに労働傷病兵社会省傘下の児童保護・ケア局から提案されており、その根拠として、政府が批准した国際条約に基づく「子どもが母乳を飲む権利」が挙げられています。
1983年以前に産休期間が2か月であった時代には、5歳未満児の栄養失調率が50%超、1歳未満児の死亡率が1,000人当たり81人超と高い水準にあったとされています。
当時、国立栄養研究所の責任者が母乳育児の有効性を示す科学的根拠を政府に提示し、1985年には出産後の休暇期間を6か月とする決定がなされました。しかし、その後、労働力や賃金面での制約などを背景に、1990年代初頭には産休期間が4か月へと短縮された経緯がありました。
おわりに
第2子出産時の産休を7か月へ延長する今回の人口法は、出生率の低下という中長期的な課題に対し、制度面から一定の対応を示したものといえます。一方で、過去に産休期間が段階的に見直されてきた経緯を振り返ると、産休制度は常に、母子の健康、社会保障財政、企業活動、労働市場の状況とのバランスの中で設計されてきたことが分かります。
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※本記事は、公開時点の各ニュースソースを参考に、主要なポイントを編集・再構成したものです。概要の紹介を目的としており、最新情報は公式発表などのご確認をお願いいたします。

