ベトナムでは2025年7月、行政単位の再編に伴い大規模な人員削減が行われました。これにより一人当たりの業務量が増えたものの、待遇の改善が進んでいません。こうした状況を受け、例年7月に実施されてきた公務員の基礎賃金の改定を、2026年1月に前倒しして引き上げる案が検討されています。
一方で、基礎賃金はこれまで社会保険料や健康保険料の計算基礎の上限と関係しており、その引き上げは保険料負担の増加にもつながっていました。
本記事では、基礎賃金と社会保険料の関係、そして2026年の基礎賃金引き上げ動向について紹介します。
基礎賃金と社会保険料の計算基礎上限
基礎賃金を基準とした上限設定
ベトナムでは基礎賃金(lương cơ sở)が公務員の給与・手当の算定基準として使用されており、2024年7月1日から基礎賃金は2,340,000VND/月(政令第73/2024/NĐ-CP号)に設定されています。
この基礎賃金はこれまで次のように社会保険料や健康保険料の計算基礎の上限に用いられていました。
- 社会保険料・健康保険料の計算基礎の上限額
- 計算基礎:基礎賃金の20倍
- 現行の上限額:46,800,000VND/月(= 2,340,000VND × 20)
これにより、被保険者の給与が高額であっても、保険料負担が過度に増えないよう設計されています。また、基礎賃金の引き上げが行われると、給与水準によっては保険料も合わせて増加していました。
一方、失業保険料の計算基礎の上限額は別の基準で定められており、地域別最低賃金の20倍が上限とされています。2024年7月1日以降の地域別最低賃金(政令第74/2024/NĐ-CP号)に基づくと、以下の通りです。
- 第1地域:99,200,000VND(4,960,000VND × 20)
- 第2地域:88,200,000VND(4,410,000VND × 20)
- 第3地域:77,200,000VND(3,860,000VND × 20)
- 第4地域:69,000,000VND(3,450,000VND × 20)
「参照額」を基準とした上限設定
2025年7月1日より施行された改正社会保険法(第41/2024/QH15号)では、第7条において、社会保険料や給付額を算定するための新たな基準として「参照額(mức tham chiếu)」を導入しました。
社会保険法の主な規定は以下の通りです。
- 第7条(参照額)
政府が決定する金額で、社会保険制度の拠出・給付額の算定に用いる。
消費者物価指数(CPI)、経済成長率、国家予算および社会保険基金の状況に応じて調整される。 - 第141条第13項(経過規定)
基礎賃金が廃止されるまでは「参照額=基礎賃金」とする。
廃止時点においても、参照額は基礎賃金を下回らない水準に設定される。 - 第31条(社会保険料の計算基礎)
強制社会保険料の上限は「参照額の20倍」と定められている。
これにより、2025年7月1日以降、社会保険料・健康保険料の計算基礎の上限は「参照額」に基づいて定められ、基礎賃金が廃止されるまでは「参照額=基礎賃金」とされます。
給与制度改革の新たな段階へ
過去7回の「基礎賃金」引き上げ
Báo Đầu Tư紙の2025年9月10日付記事によると、政府は2013年以降、「基礎賃金(lương cơ sở)」を7回にわたり引き上げてきました。主な改定は以下の通りです。
- 2013年7月1日:1,150,000VND(政令第66/2013/NĐ-CP)
- 2016年5月1日:1,210,000VND(政令第47/2016/NĐ-CP)/前回比+5.2%
- 2017年7月1日:1,300,000VND(政令第47/2017/NĐ-CP)/前回比+7.4%
- 2018年7月1日:1,390,000VND(政令第72/2018/NĐ-CP)/前回比+6.9%
- 2019年7月1日:1,490,000VND(政令第38/2019/NĐ-CP)/前回比+7.2%
- 2023年7月1日:1,800,000VND(政令第38/2022/NĐ-CP)/前回比+20.8%
- 2024年7月1日:2,340,000VND(政令第73/2024/NĐ-CP)/前回比+30.0%
当初は「共通最低賃金(mức lương tối thiểu chung)」という名称でしたが、2013年以降は「基礎賃金(lương cơ sở)」と「地域別最低賃金(mức lương tối thiểu vùng)」が区別されるようになりました。「基礎賃金」は、公務員や職員の給与および手当の算定基準として用いられています。
都市部との格差と今後の課題
内務省によると、2013年から2024年にかけて企業部門の地域別最低賃金は年平均5.96%上昇し、公務員の基礎賃金も消費者物価指数(CPI)を上回る伸びを示しています。しかし、7回の引き上げを経ても、公務員や職員の実質的な収入は依然として大都市の平均的な生活水準に追いついていません。複数の関係者は、抜本的な改革が行われなければ、優秀な人材が公共部門から民間部門へ流出する「頭脳流出」の傾向が続くおそれがあると指摘しています。
今後の改革では、職務や成果に応じた透明な給与体系の確立、業績評価制度の強化、組織のスリム化が求められています。また、社会保険制度との連動を図り、退職後も安定した生活を支える持続的な仕組みの構築を目指す方針です。
2026年1月1日からの基礎賃金引き上げ提案
首相、予算運営と賃上げ計画を説明
Nguoi Lao Dong紙の2025年10月30日付記事によると、同日午後に行われた国会での国家予算執行状況に関する討論の終盤、首相は歳入歳出の管理や公共投資の執行、そして賃上げのロードマップについて説明しました。
首相は、現任期の予算方針が「人と組織への支出」「国防・治安の維持」「社会保障の確保」という3つの柱に基づいており、いずれも適切に配分されていると述べました。また、「社会の公正や進歩を犠牲にしてまで成長を追求しない」と強調し、持続的な財政運営の姿勢を示しました。
国会議員の早期引き上げ提案と政府の対応
首相は、政府が財政収支の均衡を慎重に計算しており、感染症や自然災害など不確実要素が多い中でも「入るを量りて出ずるを制す」方針を維持していると説明しました。さらに、歳入増加分のうち70%を給与引き上げに充てていると述べ、国民生活を重視する姿勢を示しました。
今回の第10回国会会期では、複数の議員から2026年1月1日からの基礎賃金引き上げを求める意見が出されました。政府は当初、2026年7月1日からの実施を想定していましたが、こうした提案を受け、関係機関と協議のうえで前倒し実施の可能性を検討する考えを示しています。
現行水準の不十分さを指摘する声
一方で、議員からは現行の基礎賃金2,340,000VND/月(2024年7月1日から適用)が物価水準に見合っていないとの指摘が相次ぎました。
ヴィンロン省選出の国会議員は、都市部での最低限の生活費が月4,500,000〜5,000,000VNDに達しており、多くの公務員や労働者が生活に苦しんでいると訴えました。
また、タインホア省の議員は、行政単位の再編により業務量が増加する一方で、待遇が改善されていないと指摘。職務に応じた給与制度の整備と、地方行政職員への適正な処遇を早急に検討すべきだと提案しました。
おわりに
今回の基礎賃金引き上げ案は、公務員の処遇改善を目的とする一方で、改正社会保険法の「参照額」がどのように運用され、社会保険料に反映されていくのか、今後も最新動向をお届けしてまいります。
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※本記事は、公開時点の各ニュースソースを参考に、主要なポイントを編集・再構成したものです。概要の紹介を目的としており、最新情報は公式発表などのご確認をお願いいたします。

