ベトナムの製造業、特に外資系企業(FDI)では、35歳を超えた労働者が職を失う現実があります。この問題は個々の企業だけでなく、労働市場全体や社会保障制度にも影響を及ぼします。本記事では、現場の声や最新データをもとに「35歳の壁」の実態とその背景を紹介します。


「間接的な解雇」という現実
Thoi nay紙の2025年4月17日付記事によると、企業が35歳を超えた労働者に退職を促す方法はさまざまです。最も直接的なのは契約の終了ですが、より巧妙な 「間接的な解雇」 も広がっています。これは、残業を認めない、仕事のない部署に異動させるなどして収入を減らし、労働者自身に退職を選ばせるものです。企業はこうして自社の負担を軽減しますが、その結果、社会全体が失業者や低収入者の増加という形で影響を受けています。
ベトナム内務省雇用局の副局長も「35歳以上の労働者が解雇され、新しい職を見つけるのが難しいのは現実です」と認めています。特に繊維、靴、電子部品、食品加工など労働集約型産業ではこの傾向が顕著です。
なぜ35歳を過ぎると職を失いやすいのか
企業側は、体力や柔軟性の低下、新技術への適応力の差を理由に挙げることが多いですが、それだけではありません。長年の勤務によって勤続手当や保険料などが積み上がり、40歳前後の労働者の人件費は新規採用の労働者2〜3人分に相当することもあります。さらに、経験を重ねた労働者は職場内で意見を持ち、信頼を集めやすく、食事手当の増額、賃金引き上げ、労働時間短縮などの権利を求める運動の中心となることも少なくありません。こうした要素は企業にとって利益最大化を妨げる障害と見なされ、高年齢の労働者が排除される理由となっています。
数字が示す35歳以降の厳しい現実
2023年、全国の35歳以上の失業者は約37万2,000人で、失業者総数約108万9,000人の34.2%を占めました。同年、不完全就業者は約100万3,000人、そのうち35歳以上が約64万1,000人で全体の63.9%を占めています。さらに、2024年には約48万人の35歳以上の労働者が失業保険を申請し、申請者総数約92万3,000人の約52%に達しました。
長時間労働が生む“消耗”
ベトナムの労働法(2019年改正)では、残業時間は1日4時間、週40時間、年間200時間までと定められています。一部業種では年間300時間まで許可されています。さらに、残業手当は通常の労働時間の少なくとも150%、週休日は200%、祝日・テト(旧正月)は300%を支払うよう規定されています。
しかし、Thoi nay紙の2025年4月21日付記事によると、現実はこうした法規制から大きくかけ離れています。ゲアン省のある外資系企業で働くある若い女性労働者(20歳)は、毎日12時間働き続けています。その内訳は8時間の正規勤務に加え4時間の残業で、日曜も含め昼夜交替勤務が続きます。夜勤手当は1回30,000ドンですが、それ以外に特別な加算はありません。
「1カ月交替で日勤と夜勤を回し、休憩もほとんどありません。最高でも月収は約800万ドンです」と話します。この労働ペースだと、年間で約1,400時間の残業に達します。
多くの労働者が「汗が乾けばお金も尽きる」と嘆きます。長時間労働は彼らの体力を蝕み、年齢を重ねるごとに仕事を続けることが難しくなります。最終的に、疲弊しきった労働者は職場を去らざるを得ません。
ベトナム経済管理研究所(CIEM)によると、バクニン省の工業団地では約30万人の労働者が1人あたり年間平均35億ドンの付加価値を生み出しています。しかし、彼らの年間収入はわずか約1億〜1.2億ドンに過ぎません。もちろん、生産における付加価値には資本、技術、設備といった要素も含まれますが、それでも労働者が生み出す価値と賃金の間に大きな乖離があることは、ベトナムの工場労働者が「低賃金」に据え置かれている現実を示しています。
企業の規制逃れと残業依存
理論上、外資企業は法令違反が発覚すると高額な制裁金や大口取引の喪失というリスクを抱えています。しかし、実際には監督体制の甘さを利用し、残業を常態化させるケースが後を絶ちません。
ハイフォン市労働連盟の政策・法務部長は「近年、ブランド側による工場監査が強化され、残業や社会保険加入の管理は厳しくなりましたが、その一方で企業は下請け工場を使い、契約外労働をさせています。これらの工場では労働契約も保険加入もなく、残業が無制限に行われています」と指摘します。
“残業は労働者の希望”という誤解
全国各地の調査で、行政や労働組合の関係者は「労働者は残業を希望している」と口を揃えます。理由としては、残業により収入が増え、食事の支給や快適な職場環境が得られるため、狭い寮より工場にいる方が良いという現場の声もあります。
しかし実態は、基本給が最低賃金に近いため、残業しなければ生活が成り立たないからです。生活費、教育費、医療費を賄うためには残業が不可欠であり、労働者は「残業を選んでいる」というより「残業せざるを得ない」のです。
地方に広がる人手不足と呼び戻しの試み
Thoi nay紙の2025年4月24日付記事によると、都市部や大規模な工業団地では、35歳から40歳を超えた労働者が新しい職を見つけることは極めて困難です。内務省(旧労働・傷病兵・社会省)の労働市場レポートによれば、近年の雇用市場は低迷が続き、特に35歳以上の労働者層は再就職の壁に直面しています。
ホーチミン市人材予測・労働市場情報センターが2024年第4四半期に2,000社を対象に行った調査では、企業が求める新規採用のうち60.47%が25歳未満、34.59%が25〜34歳であり、35〜49歳はわずか4.94%にとどまりました。
さらに、ハノイ近郊メーリン地区のクアンミン工業団地周辺では、わずか100メートルほどの通りに5〜6カ所もの求人案内所が並び、求人看板には「女性18〜40歳募集」と明記されています。仮に週休なしで毎日3時間の残業を受け入れても、40歳を超えた女性にはほとんど就職の機会が残されていません。このような年齢制限の「見えない壁」が、多くの労働者に再就職の希望を閉ざしています。
一方、地方では状況が大きく異なります。ハイフォン、バクニン、タインホア、ゲアン、ハティンといった省・市では、労働力不足が深刻化しており、40代はもちろん、50代の労働者さえ歓迎される場面も増えています。
ゲアン省労働組合の副会長は次のように語っています。
「現在、省内には約1万5,500の企業があり、35万人近い労働者が働いています。しかし、工業発展に伴う労働力需要が高まる中、2025年の採用計画で約4万2,000人の労働者確保を目指していましたが、労働市場の供給が追いつかず、目標を達成できていません。」
同様にタインホア省でも、過去2年間で約5万7,000人の労働者が不足し、ハティン省でも人材確保が課題となっています。各地方自治体は、南部へ出稼ぎに行った労働者を地元に定着させるため、旧正月(テト)の時期に家庭訪問を実施し、プレゼントを渡して「地元で働き続けてほしい」と呼びかけるキャンペーンまで展開しました。
低賃金が呼び戻し策の壁に
しかし、この「呼び戻し作戦」は十分な成果を上げていません。ハティン省労働・傷病兵・社会局(現在は内務省に統合)の課長はこう述べています。
「2022年、南部から約3万3,000人の労働者が帰郷し、多くの企業がこの機会に採用を強化しました。しかし、半年も経たないうちにほとんどの労働者が再び南部へ戻りました。その理由は、地元企業の月給が約500万ドンと低すぎたためです。」
実際、ある企業では2,000人の採用目標を掲げながら、最終的に採用できたのはわずか5人にとどまったといいます。
人口動態の変化と労働市場の課題
ベトナムはすでに「人口のボーナス期」を終え、急速に高齢化社会へと移行しています。これは世界でも有数のスピードで進んでおり、労働力人口は縮小し、労働需要は一層高まっています。さらに、工業化の波による「油染み効果」によって、地方の工業団地が次々と拡大し、労働者の移動は一部の地域にとって「人材確保の朗報」である一方、別の地域にとっては「人材流出」という新たな問題を引き起こしています。
持続可能な労働環境への提言
こうした状況を受け、内務省雇用局の副局長は、35歳以降の労働力不足に対処するため、雇用政策や失業保険制度の見直し、高年齢層や女性労働者を優先した需給調整の強化、移行期の職業訓練やデジタルスキル向上支援など、9つの包括的な解決策を提案しています。
おわりに
35歳を超えた労働者が安心して働き続けられる職場づくりは、個々の企業にとってだけでなく、ベトナムの労働市場全体にとっても避けて通れない課題です。急速な高齢化と労働力人口の縮小が進む中、この世代が活躍できる仕組みを整えることは、将来的な人材不足への対応策として有効と考えられます。
ベトナムの人事に関するお悩みがございましたら、お気軽にご相談ください。
※本記事は、公開時点の各ニュースソースを参考に、主要なポイントを編集・再構成したものです。概要の紹介を目的としており、最新情報は公式発表などのご確認をお願いいたします。

